研究領域の現状 177
光物性測定器開発研究部門(極端紫外光研究施設)
田 中 清 尚(准教授) (2014 年 4 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:物性物理学,放射光科学
A -2) 研究課題:
a) 高温超伝導体の電子状態の解明
b) 新規スピン分解角度分解光電子分光装置の開発 c) 角度分解光電子分光における低温技術の開発
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 近年発見され世界中で精力的に研究がされている鉄系超伝導体はその高い超伝導転移温度(Tc)から注目を集め, 基礎・応用問わず世界中で精力的に研究がなされている。昨年まで在籍していた大阪大学理学部田島研究室では, 高圧合成法により鉄系の中で最も高い Tcを持つ 1111 系と呼ばれる系の P と A s を連続的に固溶させた組成の単結晶 の育成に成功している。そこでバンド構造・超伝導ギャップ構造の詳細を明らかにすることを目的として U V S OR B L 7U において角度分解光電子分光測定を行った。測定の結果,輸送測定で変化の見られた P /A s 比を境にdxz軌道 のバンドがフェルミ面を形成することがわかった。これは P /A s 比による超伝導状態の違いが,フェルミ面の有無に より決定されていることを示している。フェルミ面のネスティングを基本とするスピン揺らぎとは違うメカニズムを 持つ超伝導状態が存在していることを直接明らかにした初めての結果であり,今後超伝導ギャップの対称性を測定 することで,そのメカニズムを明らかにする予定である。
b) 固体の光電子分光ビームラインであった B L 5U では,高性能化を目指してビームラインとエンドステーションの全面 的な更新を行っている。分光器には,入射スリットレス M onk - G i l l i eson 型可変偏角不等間隔平面回折格子分光器を 採用しており,建設途中であるが光子数 1012光子数/秒以上と分解能 104以上を同時に実現できていることを確認 した。また,エンドステーション用に角度方向のスピン情報を一度に取り込める新たなスピン検出器を備え付けた角 度分解光電子分光装置の開発を進めている。コンピュータシミュレーションにより電子レンズのパラメータの決定に 成功し,今後実際の建設を進めていく。
c) 角 度 分 解 光 電 子 分 光 実 験 の 高 エネル ギ ー 分 解 能 測 定 には,試 料 をど れ だ け 冷 却 できるか が 重 要となる。 現 在 U V S OR で最も高分解能な測定が可能である B L 7U では,試料を 12 Kまでしか冷却することができず,その性能を 十分生かすことができていない。そこでより低温まで冷却可能な 5 軸マニピュレータの開発を行った。冷却部の抜本 的な設計の見直しをすることで試料部において 5 K ,参照用金部で 4 Kという低温を達成することができた。これに より高エネルギー分解能での測定が可能となるばかりでなく,超伝導など相転移温度の低い物質の測定も可能とな ることで,今後より幅広いユーザーを獲得できると期待される。
178 研究領域の現状 B -1) 学術論文
E. UYKUR, K. TANAKA, T. MASUI, S. MIYASAKA and S. TAJIMA, “Persistence of the Superconducting Condensate
Far above the Critical Temperature of YBa2(Cu,Zn)3Oy Revealed by c-Axis Optical Conductivity Measurements for Several Zn Concentrations and Carrier Doping Levels,” Phys. Rev. Lett. 112, 127003 (5 pages) (2014).
B -7) 学会および社会的活動 学会誌編集委員
日本放射光学会誌編集委員 (2014– ).
B -8) 大学での講義,客員
大阪大学大学大学院理学研究科 , 招へい教員, 2014年 4月– .
B -10) 競争的資金
科研費若手研究(スタートアップ)「高温超伝導体の反射型テラヘルツ時間領域分光」, , 田中清尚 (2008年 –2009年 ). 科研費若手研究 (B), 「電荷・スピンストライプ秩序相を有する高温超伝導体の電子構造」, 田中清尚 (2012 年 –2014年 ). グローバル C OE プログラム「物質の量子機能解明と未来型機能材料創出」萌芽的研究 , 「鉄系超伝導体における低エネル ギー電荷応答」, 田中清尚 (2012 年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
4月に着任後,研究室の人員不足もありU V SOR の B L 5U におけるビームラインの立ち上げにほとんどの労力を割かねばなら ない状況であった。2015年は4月から新しい助教を迎えることも決定し,本格的に研究をする体制が整う。2014年に取り 組んできた装置開発の仕上げをするとともに,それらの装置を用いた実験を開始する予定である。